現金はもちろん、貴重品や美術品などの高額品は、引っ越し業者の補償の対象になりません。損害賠償も上限があります。現金や通帳、印鑑や貴金属などは引っ越し荷物と一緒にはせず、自分で携行するのが常識です。
ここでは引っ越し時に持ち運べない貴重品や美術品などの安全な運び方について、詳しく解説します。
なぜ貴重品を運べないのか?
引っ越しの際に貴重品を預かっても、万が一の補償はできません。そのため、引っ越し業者はこれらの貴重品の運送を拒否することができます。
これは標準引越運送約款に、「荷送人において携帯することのできる貴重品」「美術品、骨董品等運送に当たって特殊な管理を要するため、他の荷物と同時に運送することに適さないもの」は引き受けを拒否することができる、と記載があるからです。
引っ越しを依頼して契約が成立した場合は、これを了承したことになります。業者にお願いして貴重品を運んでもらえることになったとしても、貴重品が紛失した場合、業者は責任を追及されません。そのため、自己管理することが大切です。
保険で賠償できる範囲のものとは
引っ越し業者と契約すると、「引越荷物運送保険」が付いている場合もあります。これは依頼する側が加入する保険で、引っ越し荷物に生じた破損や汚損、盗難、荷物を搬出入する際の床や壁の損傷に対する修理費用を補償します。
現金や通帳、印鑑など自分で携行できるもの、パソコンのデータ消失などの損害は対象外ですが、宝石や貴金属、美術品や骨董品は対象になります。ただし、時価30万円を超えるものは含まれません。事故や火災、天災などでの破損や汚損に備えるなら、この保険がおすすめです。
一方、引っ越し業者も「運送業者貨物賠償責任保険」に加入しています。作業中に業者側に過失があった場合、最高1,000万円程度までの補償ができます。
ただし、引っ越し業者で引き受け可能だったとしても、美術品や骨董品が万が一破損した場合、補償額は1点10万円までと上限が定められています。
業者に申告していない貴重品が破損・紛失した場合、自分で梱包したダンボール箱の外側には損傷がなく、いわゆる梱包不良による破損などの場合は、補償の対象外となります。運送業者からの賠償が得られない場合の備えとして、自分自身で「引越荷物運送保険」に加入すると良いでしょう。
貴重品、美術品の専用輸送
自分で運べない貴重品は、専用の発送を手配するという方法もあります。運ぶ品に合わせて安全に梱包するほか、湿度・温度を一定に保った環境や振動を和らげる装備をした車両を使って、輸送してもらえます。
日本通運
「美術品輸送」
高価な美術作品などは、熟練した専門スタッフによる梱包と専用車両による配送を依頼することができます。保険をかけることもできますが、料金は作品の形状や額装の有無、サイズなどにより見積もりが必要になります。
「貴重品輸送サービス」
現金以外の貴金属や宝石、重要書類などを、万全なセキュリティ体制で輸送します。
参照:日本通運「専門輸送」
ヤマトロジスティクス
「美術品輸送サービス」
美術品専門のスタッフが作品の特性に合わせた梱包をし、専用車両で運びます。
セイノースーパーエクスプレス株式会社
「貴重品輸送」
高価な商品を一般輸送品と分離して輸送します。小切手や手形、株券や宝石、貴金属の輸送に使うことができます。美術品輸送にも対応していますが、料金は最寄りの営業所へ問い合わせが必要です。
大宝運輸
「美術輸送」
美術・工芸品など、立体のものも含めた美術運送を専門に行っています。展覧会などへの搬出搬入を中心に行っている業者なので、美術品の発送には信頼がおけます。
参照:大宝運輸「美術輸送」
美術品運送保険に必ず入ることになっているので、万が一の補償も万全です。価格は距離や形状、点数によって見積もりが必要です。
このように、引っ越し業社は現金などの貴重品は運べません。もし宝石や貴金属、有価証券など自分で運ぶのが心配だったりできなかったりする場合は、専門業社に依頼するという方法もあります。
高価な美術品や骨董品については、引っ越し業社に運搬できるかを確認したうえで、価値が高いものは保険に加入したり、美術品専門の発送サービスを利用したりすると良いでしょう。