
初詣などでお参りをした時のおみくじで「転居(やうつり)よし」と書いてあるのを見たことがありませんか?古くから、引っ越しというのは特別な行事で、新居で災いが起きないように縁起を担いだり、占ったりしていたようです。
その中でも、引っ越しの挨拶品というのは近所付き合いを良好に保つための大事なものでした。今でも残っている「引っ越しそば」の風習と、現代の引っ越しの挨拶品について説明したいと思います。
引っ越しそばの起源
引っ越しそばは江戸時代の中ごろに引っ越して来た人が、「そばに引っ越してきました。細く長くお付き合いください」とそばを持って挨拶に回ったことから来ているものとされる説が一般的です。
それまでは小豆粥を重箱に入れ配っていたのが、小豆の物価が高騰した時期があったため一年中安定して安く手に入る「そば」になったといわれています。
その頃は、自分の家の両隣りのお宅と、向こう正面の3軒のお宅に2枚ずつ、大家さんには5枚持って挨拶に行ったそうです。「枚」だから、「ざるそば」や「もりそば」ということなんですね。
あなたのそばに、ということと食べ物の「そば」をかけたところなどは、その頃の江戸文化の粋な町人の様子が伝わりますね。
昨今の引っ越しそば事情
「ざるそば」や「もりそば」として近所に配ったからには、当然自分たちの食べる分も茹でているので、その辺の近所みんなが同じ時間に一斉におそばを食べていたということになるのでしょうね。
当時は、乾麺の製法などはまだ確立していなかったし、生のそばを打ったらすぐ茹でる必要があり、茹で上げたそばはすぐに食べないとおいしくない。ということで、そののち「そば切手」といわれる今でいう商品券やギフト券のようなものを配ることが多かったといいます。
「そば切手」には枚数や金額が記されていて、それを持ってそば屋に行けば打ちたて茹でたてのおいしいそばを食べられるわけです。なかなか合理的ですよね。その方が、自分が食べたい時においしいおそばが食べられるのですから。
ただし、この場合、おそば屋さんが近所にないと「そば切手」をもらっても意味がありません。そのうちに「そば切手」に税金がかかるようになり、「そば切手」そのものが廃れてしまったようです。そのため、近所に配る挨拶品がそば以外のものになり、家庭ではそばを食べる習慣だけがずっと続いたのかもしれませんね。
最近の「引っ越しそば」に関するアンケートでは
引っ越しそばという言葉を見たり聞いたりしたことはあっても、今では、その意味を答えられた人は半数以下だそうです。
回答の対象者が年配ばかりだともうちょっと上がるのでしょうが、若い人たちも入るとそんなものか、と時代の移り変わりを感じます。その中でも、引っ越しそばを利用したことがある人はわずか10パーセントにも届きませんでした。
それもそのはずです。だって、考えてもみてください。当時は、スーパーやコンビニ、おそば屋さんなどの飲食店が近所になかった時代です。引っ越しの合間の忙しい時でも大勢の手伝いの人たちに振る舞うのでも、安価で手早くできるそばを作って食べていたかもしれませんが、今の時代は違います。
昔は一番手軽な方法としてそばを作っていたが、今は?
今ではちょっと出かければスーパーやファストフード店、24時間営業のコンビニやファミリーレストランなどがたくさんあります。
引っ越しで満足に落ち着いて座る場所もないような状態で、ガスだって立ち会ったうえで開けたり閉めたりしてもらわなければいけないのに、そんなところでお鍋を出してお湯を沸かして、食器を使ってざるを出して、そばを作って食べなきゃいけない理由がどこにあるのでしょう。
まして一家の主婦だったら、引っ越し準備まで一番忙しく、引っ越しの見積もりから荷造りから掃除や色々な手続きまで一手に引き受けているのではないでしょうか。そこに持ってきて、引っ越し当日まで、不自由な中でみんなの食事の面倒まで見なければならないのは無理があります。
夕食にしたって育ち盛りの子供でもいれば当然そばだけでは足らず、もっとボリュームのあるものも作らなければならなくなってしまいます。
もう引っ越しそばという風習は、現代の日本においては、もはやそぐわないものになったのでしょう。自分たちのやりたいように食べたいものを食べればよいのではないでしょうか。
手軽に「引っ越しそば」を食べるのもあり
とはいっても、やはり地域の風習もあり、そばの名産地でもある信州や関東、東北では、引っ越し当日に「細く、長く、切れない」縁起物のそばを家族で食べ、新居での平穏無事と長寿を願うことを、お正月にお雑煮を食べたり、年越しそばを食べたりすることと同様に根付いている家庭もあります。
もし、そのような家庭で育った人は、当たり前のように身近にあった慣習なので、お姑さんや旦那さんは、引っ越し当日には当然そばを食べるものだと思っているかもしれません。今ならネットで近所のおそば屋さんはすぐにみつかりますから、出前をとるなり家族で出かけるなりいくらでも手はありますよね。
引っ越し挨拶おすすめ品
「そば切手」登場以前から酒切手、菓子切手、米切手、饅頭切手などがあったそうですが、「そば切手」が廃れてからは、それらのもので代用したかもしれません。江戸時代から既に商品券のようなものがあったのは驚きですね。
現在では、引っ越しの挨拶としてどういったものが選ばれる傾向にあるのでしょうか。近所の挨拶品として配るものは、そこのお宅がどういった家族構成で年代で、どういう趣味や嗜好があるかわからないので、同じものを全部のお宅に配っても問題のない品物を選ぶことになるでしょう。
ここで奇をてらってインパクトのある変わったものを選ぶ必要はありません。好き嫌いが分かれない無難なもの、家族みんなで使えたり食べたりできるものが選ばれているようです。
引っ越し業者の中には隣近所への挨拶品としてボックスティッシュや入浴剤などを配るところもありますので、念のため事前に確かめておいてダブらないように気を使いましょう。後から同じ、ものを持って挨拶に行ったのでは気まずいですからね。
世間ではどんなものが選ばれているか
世間では、石鹸や洗剤や入浴剤、お菓子、タオル、ラップ、乾麺などが選ばれているようです。遠距離の引っ越しなら、住んでいる地域の有名な名産品があればそれを配っても良いでしょう。
どこから来たかわかり、実は近くに知り合いがいるなどの話から盛り上がることもあります。ただ、アレルギーや好き嫌いがあったらどうしよう、という気持ちもありますよね。それなら、食べ物ではない日常的に使えるものがいいのではないでしょうか。
老若男女色々な用途で使えるもの!
今のおすすめは、ずばり日本手ぬぐいです。よくあるタオルではなく、あえて手ぬぐいをおすすめします。おしゃれな小物を売る雑貨店などの棚に、可愛いおしゃれな柄の手ぬぐいが並ぶのを見かけませんか?
昔ながらのよく見かける和柄もいいのですが、今は色々な種類があり、1枚の絵画になっているようなカラフルなものや、浮世絵、アニメ、動物柄、「にんげんだもの」のような人生の教訓が筆文字で書かれているものなど、とにかくバリエーション豊富で見ていて飽きません。
手ぬぐいの専用の額縁が売られていて、飾って楽しむこともできるんです。値段も安いので、実用的なものを2枚セットにしたり色々なチョイスができますよ。
まとめ
引っ越しそばの本当の意味を取り違えていた人が案外多いのではないでしょうか。考えてみれば引っ越しそばに限らず、古くから受け継がれてきた慣習というものは、その時代に合わせてどんどん変化していくものが多いです。
伝統を大事にしたい人は、無理のない範囲でやれればそれでよし、と気楽に考えましょう。挨拶の品物は、センスのある人なら自分がもらって嬉しいものを選んでもいいのではないでしょうか。できれば引っ越しした当日か翌日ぐらいには一通り挨拶できるといいですね。