「目的地が同じなら一緒に連れてってくれてもいいじゃないか」と粘られた困った……。こんな話を耳にしたことがあります。ヒッチハイクの話ではありません。実際の引っ越しトラックの運転手さんから聞いた話です。
皆さんひょっとして、引っ越し料金を払うのだから、当然わが家の家財道具と一緒に、自分もトラックで運んでもらえると思ってはいませんか?今回は引っ越しのときに業者のトラックに乗せてもらえるのかどうか、というのがテーマです。
引っ越しトラックに同乗はできません
たしかに出発地も目的地も同じで、ほぼ同時に出発するのだから、席が空いているんだったら乗せてくれてもいいじゃないかと思う気持ちは分からないでもありませんが、これは面倒臭いとか意地悪で言っているわけではなく、国の法律で決められているので、乗せたくても乗せられないのです。
人は乗せてはいけないと決まっている
お客様から金銭を受け取り、人を輸送する業種は、航空会社や鉄道会社、バスやタクシーなどの「旅客自動車運送事業」と国で決められています。バスやタクシーはお客様を乗せて運転するために第二種の運転免許が必要になります。
人を乗せて安全に輸送するために学科の講習を受けたり、技能を習得したりして、難易度の高い試験に合格した人たちだけが、充分な研修期間を経て、知識と技術を取得した後に運転しています。
引っ越し業者は、「一般貨物自動車運送業」の免許となり、契約したお客様の家具や電化製品、衣服や本などの荷物を家から運び出し、トラックに乗せ、転居先の部屋に運び入れることが仕事なので、トラックにお客様を乗せることは禁じられています。
引っ越し業者の運転手も、もしかしたら第二種免許を取得した人もいるかもしれませんが、それとこれとは別問題。引っ越しのトラックはお客様を運んではいけないことが法律上決められています。
ですから、お客様にお金を払うからとお願いされても、国で運んではいけないと決められている以上、一緒に乗ってもらうわけにはいかないのです。
事故の際の補償が効かない
引っ越し会社は、人を運ぶことを目的とする「一般旅客運送事業」ではなく、荷物を運ぶ「一般貨物自動車運送業」です。
トラックに乗せて運ぶ家具や家電、荷物を運ぶ際に誤って住宅の壁に傷をつけたり、荷物を落としたりして破損したり盗難にあった際の万一の時のために、引越荷物運送保険に加入することが義務付けられています。
その保険は、引っ越し業務上で取り扱う物や家具や家電などの家財と住宅の門扉や室内、マンションの共用スペースなどの建物の破損に対する補償になり、あくまでも引っ越し業務遂行上に起こった事故に限られます。
しかし、お客様をトラックに乗せることは業務外ですし、人間は荷物とは見なされないので、トラック同乗中に万一のことがあっても補償がききません。車を運転している人なら分かることですが、いくら自分が気をつけて安全運転をしていても不慮の事故に巻き込まれることがあります。
同乗していたお客様に万一重傷を負わせるような事故にあった時でも、引っ越し会社の運転手や作業員は会社や労災保険から手厚い補償が受けられても、お客様には何の補償もされないことになってしまいます。
お客様にとってそんなリスクを伴うことを、やすやすと引き受けては、それこそ無責任になります。
自家用車か公共交通機関で移動しよう
転居先には自家用車か、遠距離のため、車が無理なら、飛行機や新幹線、電車やバスを利用して移動するようにしましょう。
時期によってはチケットの入手が難しい場合も考えられます。移動手段を考え、早めに手続きしましょう。
転居先に誰かにいてもらうようにする
旧居から新居まで移動する際、自分たちが先に新居の鍵を不動産屋から受け取り、トラックが到着するよりも前に着くことが望ましいですが、大幅に遅れるようなことがあっては引っ越しの作業も滞ってしまいます。
なるべく、新居には先に誰かに鍵を渡してスタンバイしてもらうか、家族が二手に分かれてどちらかが先に着いているようにしましょう。
特例で認められる場合も
先ほどは、引っ越しトラックにお客様が同乗することは法律上できない、と述べましたが、実は特例として認められているケースがあります。
現地近くでの道案内
新しい道ができていたり、細い路地で地図に載っていなかったりするような場所では、最後までカーナビが道案内をしてくれず、転居先がわからないということがあります。
そんな時には、お客様に連絡を取り、現地の道案内を頼むことがあります。そういうときに限って、トラックに乗って道を指示して案内する分には法律違反とはなりません。これは国土交通省で正式に認められています。
荷物の盗難や荷崩れを見守るとき
トラックの荷台に積んである荷物の盗難や荷崩れなどが起きないよう見守るために、特別に同乗が認められているケースもあります。
ただし、通常は単身の引っ越しプランでもスタッフが最低2人は来てくれることが多く、運転手の他にもう1人作業員がいれば荷物を見守ることはできますから、現実的にはなかなかそういった名目でお客様を乗せて一緒に移動することはないものと思った方が良いでしょう。
まとめ
引っ越し作業中に、荷主の持ち物を見て同じ趣味であることが分かり、休憩中に共通の話題で盛り上がり、お客様と作業スタッフが仲良くなることがあります。
話が弾んで意気投合したとしても、その場のノリで軽い気持ちで同乗を頼んではいけません。国土交通省で引っ越し事業の許可を得た正式の引っ越し業者であれば、お客様にどのように頼まれても丁重に断るのが当然です。
何か起きた時には、運転手どころか引っ越し業者にも多大な迷惑をかけてしまいます。場合によっては、引っ越し事業の許可を取り消されてしまうことにもなりかねません。同乗するのは諦めましょう。