引っ越し費用の経費計上と確定申告のやり方

引っ越し費用の経費計上と確定申告のやり方

会社員は住宅ローン控除や医療費控除などで税金が還付されることを知っている人は多いでしょう。しかし、特定支出控除のことまではまだまだ認知している人は少ないようです。特定支出控除には、会社員の転勤に伴う引っ越し代も含まれています。

会社員に限らず、個人事業主も転居の際の引っ越し費用が経費として認められるため税金が安くなります。どのような仕組みなのか、わかりやすく説明したいと思います。

会社員も確定申告で節税できる

会社員は会社の年末調整があるため確定申告とは無縁なため、税金のことを詳しく知ろうと思う人が少ないかもしれません。しかし条件次第で税金が安くなり、いくらかのお金が返ってくるかもしれませんので、下記の説明を参考に試算してみてください。

引っ越し費用が控除の対象に

会社の辞令により転勤が決まり引っ越ししなければならないときは、かなりの費用がかかります。景気の良い時代なら引っ越し業者に支払う引っ越し料金、新居の下見のための交通費や宿泊費、移動のための交通費や諸々の雑費の手当などが支給されていた人もいるでしょう。

しかし、昨今の不景気のため、全員に至れり尽くせりの面倒を見てくれることは少なく、手当を削られたり減額されたりで、引っ越し料金も上限額を超えた分は自己負担などと決められてしまう場合もあるようです。

それが不満だとしても、今の時代は退職をしても今以上の待遇で再就職できる保証はなく、やむなく今の職場にしがみつくしかない場合が多いものです。そんな会社員たちの一助とするため、国が給与所得者のためにいくつかの減税措置を講じました。その中の一つが、転勤に伴う引っ越し代を経費として認めるというものです。

給与所得者の特定支出控除とは

会社員の月々の給与から天引きされていた所得税はあくまでも概算です。年末調整で個人別の正しい年税額を算出し、一年間に天引きしていた金額との差額を精算しています。

そのため養う家族が多い人はそれまでに天引きしていた額が多過ぎたために年末の給与で返金される額が多く、生命保険などを自分で払っていない独身者はあまり返金がないということになります。

年末調整により冬のボーナスが2度もらえたかのように喜ぶ人もいますが、水を差すようで申し訳ないのですが、その返金分は会社から支給されたのでも国から助成されたものでもありません。

あとから税金を追加徴収したのでは不満が出るため、あくまでも先にほんの少し多めに天引きしていた分の差額を返してもらっただけですので、本来は自分がもらうべきお金です。会社で年末に税金を調整してもらえるのは「扶養控除」、「保険料等控除」、「配偶者特別控除」までです。

しかしそれ以外に、会社員でも仕事をするために支払った費用の合計が一定額を超えると、税金が安くなる制度があります。

それが「特定支出控除」で、通勤費や引っ越し料金、その他、仕事で必要な資格取得費用、単身赴任時に自宅に帰る時の交通費、仕事で使う図書費や衣服費、得意先の接待費などが経費として認めてもらえます。個人事業主の必要経費のようなものです。

詳しくは、国税庁のホームページに記載されています。

経費として認められる支出の費目は以下のとおりです。

1 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出(通勤費)
2 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出(転居費)
3 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出(研修費)
4 職務に直接必要な資格を取得するための支出(資格取得費)
※平成25年分以後は、弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も特定支出の対象となります。
5 単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出(帰宅旅費)
6 次に掲げる支出(その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの (勤務必要経費)
(1) 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用(図書費)
(2) 制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用(衣服費)
(3) 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出(交際費等)

※「国税庁 No.1415 給与所得者の特定支出控除」より引用
参照URL:国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」

ただし、上記に掲げた費用のうち、会社から支給や手当があったものに対しては経費に計上することはできません。また、特定支出控除の適用が認められる基準額というものが決められているため、その基準を満たさないと制度の適用ができません。その基準額とは、その年の一年間分の給与所得控除額の半分です。

給与所得控除額とは、個人事業主の必要経費に対して会社員が何の経費も認められないのは不公平だとの声を受けて、細かい申告をしなくてもある一定のラインで一律の金額を控除するために設けられたものです。

たとえば、平成29年分の場合の一例では、給与の源泉徴収票の支払金額が300万円の人の給与所得控除額は108万円、400万円の人は134万円、500万円の人は154万円です。源泉徴収票の支払金額とは、源泉徴収票の給与・賞与の右横の支払金額のことを指します。つまり、年収ですね。

詳しくは下記のページで見られます。
※参照URL:国税庁「No.1410 給与所得控除」

特定支出控除は、それぞれの給与所得控除額の半分を超えた額が経費として認められるため、給与の源泉徴収票の支払金額が300万円の人は、上記の1から6までの合計額が54万円以上の人が所得税還付の対象になります。400万円の人は67万円以上、500万円の人は77万円以上の計算になります。

この金額を超えた分は、確定申告をして給与所得控除後の所得金額から引いた額で正しい所得税額を計算し直して、既に支払った所得税から還付してもらうことになります。

サラリーマンの確定申告の手続き方法

特定支出控除の費目が想像していた以上に多岐にわたり、これなら自分も申告すれば税金が戻るかも、と思った人がいるのではないでしょうか。通勤用のスーツや仕事で使うパソコンソフトの解説書なども含まれます。

これからは迂闊にレシートを捨てずに念のため取っておくことをおすすめします。品名や年月日や日時まで印字されるレシートは、手書きの領収証よりも効力を持つ場合もあります。

手続きができるかどうかを試算

仕事のためにスーツを買ったり仕事で分からないことがあれば書籍を買って独習したりすることは、社会人なら普通にやっていることでしょう。幼い子どもと離れて単身赴任をしているなら、連休が取れればほんのわずかな時間しか会えなくても自宅まで往復することもあるでしょう。

それらの特定支出控除にあたる費用をすべて足して、はたして上記のような特定支出控除が適用される範囲の金額になっているでしょうか。

年収が300万円の人が特定支出控除のすべての費目の合計が54万円以上になるか合計してみましょう。そこまで使うには月々45,000円以上の額を仕事のために出費しているでしょうか。ボーナスを考えず年収300万円を12カ月で割ると月々25万円の給与になり、その中から税金や保険料などを差し引かれ、実質手取り額は20万円程度でしょう。

その20万円から毎月毎月45,000円以上を仕事のために自費でお金を払っていますか。別に毎月でなくてもかまわないのですが、年間で54万円以上を出しているなら確定申告をして税金の還付の手続きをした方が良いです。

ただし、ほんのちょっとオーバーする程度では還付申告する労力に比べて返ってくる金額があまりに少ないという結果になり、この制度の計算式に疑問を持つ人は多いです。そのせいもあり、一般には浸透しない制度となっています。

唯一、資格取得のための経費が認められた翌年には、会社勤めをしながら専門学校に通って高い授業料を払う人たちがわずかに増え、いくらかの節税にはなったようです。たとえば、あと少しで基準額を満たすので必要ないけどとりあえずスーツでも買って還付できる金額にしよう、という無駄な出費はまったく意味がないということを付け加えておきます。

会社に申請して経費として証明してもらう

特定支出控除に当てはまる支出のレシートをせっせと集めてやっと基準額を満たすことになっても、会社が本当に仕事のために使ったものであると認めてくれないことには、経費として申告ができません。

どういうことかというと、年収500万円の人が毎月毎月65,000円もの新しいスーツを一着ずつ買って基準額に届いた場合、それが真っ当な支出であると会社が判断してくれるでしょうか。

家賃を払ったり住宅ローンを払ったり、家族を養ったりしなければならない人が、自分の小遣い以外に毎月仕事のためのスーツに6万円以上を出費するほどの余裕があるのかということです。

年収500万円の人が1年に12着のスーツを買うとはとても思えません。スーツは極端にしても、その他の費目でも、会社員なら定期代などの通勤費は支給されるでしょうし、転勤のための引っ越し代や研修費や制服代などはたいてい会社で支払ってもらっているはずです。

それ以外の部分で、会社が支給してくれないから自分で確定申告するための経費を、会社を通して認めてもらうということ自体に無理があるような気がします。

年収400万円の場合の減税額は?

たとえば年収400万円の人が、特定支出を70万円使った場合で計算してみましょう。年収400万円の人の給与所得控除額は134万円なので、その半分を超えた額が控除されます。134万円の半分は67万円、つまり70万円使った場合は、70万円から67万円を差し引き3万円が特定支出控除の対象になりました。

誤解されやすいのですが、この3万円が手元に戻ってくるわけではありません。医療費控除の還付も同様に、10万円を超した金額が戻ってくるのではないということを理解しておきましょう。

オーバーした3万円を、控除額に加算して課税対象額から差し引き、税金が再計算され、その差額が戻ってくるわけです。所得額により税率はその年ごとに変動があり、今は復興特別所得税がありますが、先程の3万円の控除が受けられる人の還付金は約6,000円です。

何度も言いますが、この数千円の還付を受けるために無理やり基準額をオーバーするために何万円も使う必要はありません。

個人事業主も引っ越しは経費計上できる

個人事業主も自分の業務を遂行するための支出は必要経費に認められます。今まで自宅で仕事をしていたが、業務拡大のためよそに事務所を借りて移転する場合の引っ越し費用は100%経費になります。

確定申告を行う際の注意点

確定申告に慣れている人はインターネットを利用したe-Taxで申告をしている人もいるかもしれませんが、引っ越しなど通常の年とは異なる経費の計上をするときは、よく調べたり税理士に相談したりして理解した上で手続きしましょう。

曖昧なまま適当に提出して税務署からいわゆる「お尋ね」や「呼び出し」が来ても、正しく回答できないのでは、あらぬ疑いをかけられるかもしれません。

家を事務所として使う場合

自宅の一部を事務所として使っている場合は、通常の家賃や水道光熱費などの経費計上の方法と同様に引っ越し料金の全額ではなく、面積比で家と事務所の割合によって算出します。通常引っ越し業者に支払う引っ越し料金は「雑費」として計上することになります。

家事按分で全額が経費にはならない

家事按分とは、自宅の一部を事務所として使う場合、家賃や光熱費を家と事務所を一定の比率で分割し、仕事で使用する分を経費として計上することです。

原則として、家全体の30%を事務所として使っているなら、家賃10万円の場合は3万円を経費計上できますが、引っ越し料金も20万円かかる引っ越し費用のうちの6万円が経費として認められるということになります。

引っ越し費用のうち経費と認められないもの

上で「原則として」紹介したのは、例外もあるためです。たとえば、自宅に置いてあるピアノの輸送に、クレーン車が必要になりかなりの費用がプラスされ、おまけに引っ越し後の調律や防音マットなどもオプションで頼んだ、というような場合です。

引っ越し業者に一括して料金を支払う場合は、このピアノに関する費用を加算した全額を基準に家事按分で計算するわけにはいきません。この場合、事業の内容が大きく関わってきます。

つまり、ピアノ教室を運営していたり、ピアニストとして活動している場合は経費として認められますが、事業の内容が音楽とは何の関係もない場合は経費とは認められません。

経費にすれば税金が安くなるからと何でもかんでも計上し、所得に対して異常に経費が多すぎたり、いい加減な領収証でごまかしていると運が悪ければ査察が入り、過去を遡って調べられ追徴課税されて一度に高額の税金を納めることになってしまいます。

まとめ

会社員は期待したほどの還付が受けられないためこの制度を利用する人はごく僅かです。
一時的に利用者が増えた年もありましたが、今は利用者が10万人あたりわずか3人程度に減ったというのですから、条件が厳しすぎるためなかなか利用しづらい制度と言えます。

しかし、一年間でいつどんなときに大きな出費をするかもわからないため、とりあえずは会社員も個人事業主のようにコツコツとレシートや領収証を集め、不用意に捨てないほうが良さそうです。

個人事業主なら、上の説明のとおり経費計上はしないと損ですので、引っ越し料金に限らず、新居の賃貸に関わる仲介手数料や礼金、火災保険料などはきちんと申告して節税するべきです。

ただし、敷金などは経費には認められませんので、ややこしく難しいと感じたら無料の税務相談コーナーできちんと相談した上で確定申告を行なってください。

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